甘えたで、不器用でも





「離してください」

「嫌だ」

「私も嫌、です」



主にこの至近距離に耐えきれないので。


と、ぐっと彼の胸を押してみてもびくりともしない。それより余計に彼に引っ張られ、膝の上に綺麗に座る形となってしまった。それが妙に恥ずかしくて居た堪れない私は眉根を寄せる。



「とりあえず、離して下さい」

「無理」

「……」

「だって離したらお前、俺から逃げるだろ」



ごもっともなそれを言われた私は何も言い返せない。
すっと、両肩に彼の両腕が乗る。と、おでこをごつんとぶつけられた。


彼の体温が私のおでこに伝染する。吐息がかかるこの距離は体温が一気に上がったように、くらくらと目眩がする。



「ねぇ、俺のこと、嫌いなの?」



吐息混じりにそんなことを聞いてくるなんて狡いじゃないか。


ふるふると小さく顔を横に揺らす。と、おでこからそれが伝わったのか、彼は優しく眉尻を下げた。



「じゃ、なんで拗ねてるの?」

「……て、」

「ん?」

「……だって、不安で、」



おでこを離し「なにが?」と、私の目の前で優しい表情で小首を傾げるその姿を、あぁ愛しいなと思った。全てを打ち明けて呆れられるのは怖い。


でも、



「私、8歳も年下で、こどもぽくて、いつか嫌われちゃうんじゃないかと思って、こんな自分が嫌で……怖くて……、」


「ばーか」



と、突然罵声を浴びせられ、本当にこの場から溶けて無くなってしまいたいと俯きかけた瞬間、彼の大きな掌が私の頭を包みそのまま彼の胸にダイブさせられた。


耳朶をするりと撫でられ彼の吐息が私の聴覚を翻弄する。これ以上この距離に居たら心臓が保たない。


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