甘えたで、不器用でも
「そんなに喜んでもらえて俺も嬉しいよ」
「えーと、」
「とりあえず、俺にお礼と言う名のご褒美をあげたいなって思ってるでしょ?」
お皿を拭いただけじゃないか。といろいろツッコミどころ満載な発言に思わず唖然とする。
「はい。じゃあ、ご褒美に、ちゅーして」
「……え」
「手伝ったご褒美」
「私から、するの……?」
「当たり前でしょ。ご褒美なんだから」
え、当たり前なの?
そもそも、お皿拭くのも当たり前のことだと私は思うよ。私は毎日やってるよ。そんな当たり前のことにご褒美を求めることは当たり前のことなのでしょうか……?
「はやく」
「……いや、あのー」
「私があげられるものならってさっき言った」
「でも、」
「いつも俺からだから、たまにはしてほしい」
じっと見つめられたまま放たれた言葉がぐさりと胸に刺さった。
そう、私から彼にキスをしたことは多分一度もない。嫌いだからとか、潔癖症だからとか、そんなことではなく。ただ恥ずかしいからという理由で。
好きな人にいったいどのタイミングでどんな感じでキスしたいなんて、言っていいのかが分からない。