甘えたで、不器用でも
「真っ赤になって、本当可愛い」
「……やめて、よ」
「そんなに俺のこと好き?」
覗き込まれて聞かれたらもう逃げ道なんて残っていない。
「好き。だから、余計恥ずかしいの」
と、彼は満足げに微笑みひと言。
「じゃ、いつも洗い物とか、食器拭きとかやってくれてるお礼と」
「……」
「俺を喜ばせたご褒美」
「え、」
そう言って、自分の唇で私の唇を塞いだ。
熱と、鼓動と、彼の体温に溶けてしまいそう。包まれた両手にもう力は入らなくて。
抵抗という術を私は失った。
与えられる甘い快楽に溺れて、ふわふわ、ふわふわ、脳が麻痺していく。
しばらくして離れた彼の唇から溢れた言葉を、麻痺した脳が理解するまでにしばらく時間を要したのは言うまでもなくて。
「今日、5月23日ってキスの日なんだって。だからどうせならキスして欲しかったんだけど、恥ずかしがってる姿が可愛いくて我慢できないから、俺からで許してあげる」
「……」
「でもキスの日だから手加減はできないけど、ごめんね」
理解しようと甘い快楽から逃れようとしたけれど無残にもそんな抵抗はものの数秒で使い物にならなくなった。
「ねぇ……ちょっと、ま、まって、」
「無理。ずっと、キスしたくてたまらなかった」
再度塞がれた唇からは、言い訳も文句も生み出せず甘い吐息だけが溢れ落ちた。