甘えたで、不器用でも
「本当に、馬鹿なの?」
耳元で馬鹿、馬鹿と彼女に向かって連呼する彼氏が他にいるだろうか。その声でさえいい声で本当にむかつく。
なぜ拗ねているのか?と問うので正直に答えてみればこのあり様だ。やはり理不尽極まりない。
「馬鹿って言う方が……馬鹿なんですよ……」
彼の胸に顔を埋め、本当にこどもっぽくてアホみたいな返答をさらりと音にした自分に後悔。どうしようもなくて遠慮がちに彼の着ているシャツをきゅっと握りしめた。
と、ぽんぽんと心地よく頭を撫でられる。その手があまりにも優しくて安心してちょっぴり泣きたくなった。
抱きしめられた体を抱きしめ返すにはなんだか申し訳なくて、彼のシャツを掴んでいた手に力を込めれば耳元で彼がくすくすと小さく笑う音が聞こえる。
「なんでそんな可愛いことするかな」
笑い混じりにふわりと囁くように私の耳元にその言葉を落とす。と、次の瞬間。私を抱きしめる腕に力が込められた。さらに彼の胸に顔が埋まって呼吸がし辛い。
「馬鹿だな。俺、お前のこと、絶対離してなんかやらないよ」
彼の体温に包まれ閉ざされた視界の中で甘く、甘く消えてしまいそうな音が聞こえた。
涙腺が崩壊するのには、1秒も、かからなかった。