甘えたで、不器用でも
するりと私の指に自分の指を絡めてくる彼。腿の上で絡められた彼の指先を見て、私はひとつため息を溢した。
「離して、ください」
「どうして?」
さらりと。どうしてじゃないよ。この人は「終わりにしよう」って言った私の言葉を聞いていなかったのかな、まったく。
落とした視線の先には、きらりと光るシルバーが私を少しだけ惨めにする。彼の左手の薬指にはまった指輪。
私の薬指には、存在していなくて。
彼は女物のムスクの香りを纏って。
私ではない女の影を、嫌というほど見せつけてくる。
「俺のこと、嫌い?」
ぎゅっと、絡めた指先を握りしめられて、囁かれるような彼のその言葉に涙が滲んだ。
なんなの本当に、嫌いだ。嫌い、嫌い、嫌い。
じろりと涙で歪む視界の中で彼を睨みつける。
私と彼がこうして会うのは1年に1度。7月7日の私の誕生日の日だけ。たまになんてことない連絡を取り合うことだけが許されていて。
7月7日って、私は織姫なんかじゃないよ。そんなロマンチックな関係じゃない。
年に1度だけ、こうして会ってお酒を飲んで、体を重ねる。彼には、奥さんがいる。だから会ってはいけないことは分かっていた。だけどもう5年もこんな関係を続けて、苦しいだけで。
絡められた指先を無理やり離して、赤色のカクテルを一気に飲み干した。