甘えたで、不器用でも
彼のシャツに私の涙が染みていく。「泣くなよ」と困ったように優しく背中をさすられ、でも泣かせたのは誰だよと音にならない叫びが涙となって溢れてくる。
本当にこの人が大好きなのだ。彼のひと言で不安は一瞬で晴れる。でもやっぱり、私ばかりが好きみたいでなんだか悔しい。
「お前に泣かれるのがいちばん、困る……」
ぽんぽんと背中を優しく叩かれ、すっと体が離れていった。彼のシャツは私の涙で水玉模様のようにそこだけ色を変えている。
「あーあ」と、言いながらそれを見て彼は眉尻を下げ、くすりと微笑む。
彼の瞳が再度、至近距離で私を覗き込もうとするが、泣いて絶対にブサイクであろう今のこの顔はさすがにこの距離では見られたくない。全力で阻止しようと両手で顔を覆おうとしたが、するりと指先を絡め取られ失敗に終わった。
「もう、泣くなよ……」
「……はい」
ぎゅっと握られた両手が熱い。こくりと頷けば彼は嬉しそうに微笑んだ。
「じゃ、ちょっと待ってて」
「……え」
「いいもの、あげるから」
と、するり。一瞬彼に抱きかかえられ、まるで壊れ物を扱うかのように優しく彼の膝の上からソファの上に移動させられた体。
彼の体温が残ったソファに座りすっと立ち上がってキッチンに消えていく背中を見つめた。
さっきまであんな距離にいたせいだろうか。触れられない時間が寂しい。目に溜まった涙が溢れる前に指先で拭った。1度涙腺が崩壊すると止めるのに些か時間がかかる。
「お待たせ」
5分も経たないうちに新しいマグカップを2つ手にした彼が姿を見せる。一緒に香ったのはコーヒーの香り。
はい、と手渡されたそれの中にはミルクたっぷりのカフェオレ。
「こどもだから、カフェオレにしておきました」
私の右隣に座りまた優雅にブラックコーヒーを飲む彼にまだそれを言うか。と、じっと視線を送る。