甘えたで、不器用でも



再度ペンを握り、短冊の上にそれを滑らせる。
書き終えて、私は「お願いします」とバーテンダーに短冊とペンを返した。



「ありがとうございます」

「……いいえ」

「ところで」

「……はい」

「お客様は、本日お誕生日ですか?」



短冊を受け取ったバーテンダーはなぜかそんな問いかけをしてくる。どうしてこの人が私の誕生日を知っているのだろうか。



「……はい」



なぜ?という表情を浮かべ恐る恐る返事をすれば、さきほど見せた笑顔を再び作り綺麗な指先で今度は私の飲むカクテルのグラスを指さした。



「では、本日お誕生日のお客様に細やかでは御座いますが、私よりお誕生日プレゼントを」

「……え」

「貴女様がお飲みになられているこちらのカクテルはキス・オブ・ファイアというカクテルで御座います。情熱的な恋、熱愛という意味を持っております」



突然の展開によく分からなくて、ただただカクテルを見つめ心地のいいテンポで紡がれる言葉に耳を傾ける。



「そして、こちらのカクテル」



今度は空席になった席の前。彼が飲んでいる黄緑色のカクテルを指さしたバーテンダー。


綺麗な指先を追うように私の視線は自然とそちらに流れていく。



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