甘えたで、不器用でも
しばらくして、「お待たせしました」という言葉と共に運ばれてきた黄金色のカクテル。
「ポートワインで御座います」
「バーテンさん」
名前を聞いて、彼は食い気味に私の前に置かれたグラスをバーテンダーの方へするりと滑らせる。
「私のおすすめです。お代は結構ですので」
「そういうことじゃなくて」
「誠に勝手ではありますが、私には貴方様がそうしたいように見えたのでこちらを提供させていただきました」
バーテンダーは動じることなく返されたグラスを綺麗な所作で再びこちらに滑らせる。
彼等の会話の意味は私にはまったく分からない。
けれど、盛大にため息を吐き出した彼は、観念したように大きなため息を溢すと体ごと私に向いた。太腿の上にある私の手を取ると自分の指を絡める。
「ねぇ、俺のこと嫌い?」
私の両手を拘束して、またそんな狡い質問。
じっと見つめてくる彼の視線が熱い。泣いてぐちゃぐちゃな顔を見られたくなくて、俯けば酷く悲しく甘い声音が「逸らさないでよ」と懇願してくる。
本当に、やめてほしい。