甘えたで、不器用でも



「狡い、よ」

「うん」

「狡いよ。……こんなに好きに、させておいて」

「うん。俺、狡いんだ」



交わった視線がどうしようもなく私の心を剥き出しにする。


言ってはいけない言葉がある。
私は彼の1番ではないから。


でも、



「好き、だいすき」

「……」

「私だけを、好きでいてほしい」



1番にしか許されない言葉を告げてしまったら、さよならなのは分かっていた。でも、さよならをしに来たのだから、もうこれでいいのだ。



「迷惑かけてごめんなさい。我が儘言ってごめんなさい。でも今日で最後だから、もう会わないから」



そこまで言って絡められた指先は思い切り引かれた。無残にも彼の胸にダイブした私は彼の腕の中に閉じ込められる。


ムスクの香りに包まれて、また、涙腺が壊れた。



「苦しいよ」

「うん、ごめんね」



ぎゅっと抱かれた体は苦しくて「離して」とお願いしてみるけれど「ごめんね」を連呼するばかりで彼は腕の力を緩めてはくれない。


苦しくて死んでしまう。なんて思いながらこのまま彼の腕の中で死んでしまうなら、いいか。なんてどうしようもなく、みっともなく未練たらたらな自分が嫌になる。



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