甘えたで、不器用でも
「離してよ」
「うん」
「ねぇ……」
「うん。離してやりたいんだけど、でもごめん」
「……」
「離したくない」
ぎゅっと、彼の背中に腕を回した。いけないと分かっているのに。彼は私のものじゃないのに。
「このまま、俺の話聞いてくれる?」
「……なに?」
お別れの準備はできている。どうせ1年に一度しか会わない関係だったのだから大丈夫。なにも変わらない。
……さようなら。
「嫁と、別れた」
「……」
「勝手なこと言ってるって分かってる」
あれ、よく分からない。いままで何度、そんな現実を夢見て望んだか。あまりにも都合のいい幻聴に瞬きを繰り返した。