甘えたで、不器用でも
「あの人、優しかったよね。大人な感じでかっこよかったし」
なにも言わない彼に耐えきれず無難であろう言葉を音にしてみた。率直な感想だけれど。
「……なんでだよ」
「なにが……?」
「知らない男に可愛いとか言われて喜んでんなよ」
「普通に喜ぶよね、あんなかっこいい人に言われたら」
ぎゅっと指先を握る彼のそれが強くなる。なに?なんだろうこの感じ。
真っ直ぐに見つめられて、思わずどきりと胸が鳴る。
「……頼むから自分が可愛いって、もっと自覚しろよ」
「なに、それ」
顔が熱くなるのを抑えきれない。あれ、こんなこと言う人だったっけ?と、昔の記憶を辿る。私の記憶の中では、彼はどう考えても私に興味なんてなかったし、なんなら女だなんて思われていないものだと思っていた。
「ねぇ、どうしたの……?なんか今日へんだよ。私なんて可愛くないし、別にあの人は助けてくれただけで、そもそもむかつかれるようなことなんてなにも……」
妙な緊張と恥ずかしさに、ベラベラと思っていることをまとまりなく音にして吐き出す。彼に言っているのだけれど半分は自分に言い聞かせるように。