甘えたで、不器用でも
答えなんて、どこを探したって、ひとつしかない。
止まらない涙を流しながら、音にできない彼への思いを伝えたくて、こくり、こくり大きく頷く。
「よかった」そう言って、彼は笑った。
「成人式、行かせなくてよかった」
と、安心したようにそう呟いた彼に、ん?と視線を向ければ、ぎゅっと身体を抱かれ、彼の体温がさらに近くなる。真紅色のソファがそれに合わせ、鈍い音を立ててギシリと、鳴いた。
「成人式でお前の振袖姿、誰にも見せてなんかやらないし」
「……なにそれ」
「必死なんだよ、28歳のおじさんも」
くすりと笑って、私の頭をぽんぽんと軽く叩く。私もつられて、思わず笑ってしまった。
「嫉妬でいっぱいなわけですよ」
頭を抱かれ、彼の反対の手が私の顔へ伸びてくる。するり、頬を撫でられ、その綺麗な指先は顎を捕らえた。
彼の吐息が近づいて、酔いしれそうなそれに私は目を瞑る。
私の唇に彼のそれが重なって、翻弄した。
「甘い……」
唇をぺろり、舐めた彼は眉根を寄せて低い声でそう呟いた。なんとも蠱惑的なそれに酔いしれる。
「それ、ください」
するりと彼のマグカップを手にし、口に運ぶ。口の中一杯に広がった苦い味に、少し大人になれたような気がした。
「無理に大人になるなよ、お前はまだカフェオレで十分。あんまり俺にやきもち妬かせないでくれる?」
「でも、」
「でもじゃない」
彼はそう言って私のマグカップを手にすると、自分の口に運び、静かにテーブルに戻す。と、私の唇に自分の唇を重ねた。
彼のそれがあまりにも甘くて、惹かれて。私はやっぱり、まだまだ大人になれそうにない。
「甘い方が、好きだろ?」