甘えたで、不器用でも



「早かったね」

「……え」

「いや、あんまり早いからびっくりしたよ。ごめん、俺まだ着替え終わってない。とりあえずどうぞ」



あれ?だって“ねぇ大至急、俺の家に来て!”って言ってましたよね?あれは私の聞き間違い?


なんだか一気に体の力が抜けた。


扉を開けて「どうぞ」と至極当たり前に私を部屋へ招き入れようとしているのは約1時間ほど前まで、緊急を要しているであろうと思っていたその人。


玄関に足を踏み入れ、背後で重たい扉が閉じる音を聞いた。
じっと、そこで立ち尽くし目の前の彼を見つめる。


そんな私をおかしく思ったのか「どうした?」という視線を向けてくる彼。



「上がりなよ」

「ねぇ、」

「ん?」

「体調が悪くて、寝込んでるんじゃないの?」

「え、いや、俺元気だけど」

「じゃあ、なにか悪いことに巻き込まれて困ってるんじゃないの?」

「なにそれ、ドラマの世界?」



真剣に問いかければ笑いながら、なにを言ってるの?みたいな反応をされ、イライラが募る。


まさかとは、思うけれど。


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