甘えたで、不器用でも
「ねぇじゃあ、『大至急、俺の家に来て』って言ったのは?」
「え、」
「え、じゃない!電話で言ったでしょ!しかも私が聞く前に、訳は着いたら話すって言ってすぐ電話切るし!」
「……もしかして、それで急いで来てくれたの?」
「当たり前だ、馬鹿!心配したのに」
眉根を寄せて、目の前にいる至って健康そうで、映画やドラマみたいな大事件に関わっているはずがあるわけもない彼を睨みつける。
私の心配を返せ、馬鹿。と心の中で悪態を吐き出しながら。
「なにそれ、めっちゃ嬉しい」
「はっ?」
すると私の怒りが通じていないのか、するりと手首を引かれすっぽりと彼の腕の中に収められた。
私よりも幾分か高い体温に包み込まれて不覚にも心地がいいななんて思ってしまって。
「離して」
「ごめん、無理」
「もう、なんなの?なんで私のこと呼びつけたの?」
肩を剥がそうと心みたけれど、私が彼に力で敵うはずもなくて。けれど、抱きしめ返すなんて今のこの状況ではあまりに理不尽なのでそっと両手を下ろし自分の履いているショートパンツをぎゅっと握りしめる。