甘えたで、不器用でも



「トリックオアトリート」



本を読んでいれば目の前でじっと私を見つめ、いい歳してお菓子をねだってくる男がひとり。


ローテーブルを挟み向かいのソファに座っている彼はなぜかニコニコの表情だ。


まあ、想定内なのだけれど。


私は彼には視線を向けずに本の上の文字を追いながら、ソファの下に置いていた自分の鞄の中を漁る。仕事の帰りに買った飴玉がたくさん入った袋から、一粒差し出した。



「はい」



ちらりと顔は動かさず視線だけで彼の表情を盗み見る。


ころりと掌に転がった飴玉にパァッと綺麗な顔をキラキラに輝かせる彼。嬉しそうに「ありがとう」なんてお礼を言われてしまった。


飴玉ひとつでそんなに嬉しそうにしてくれるとはなんと経済的な彼氏だろう。これでも私より3歳も年上なのだから世の中恐怖だ。


年上感を微塵も感じさせないこの人の精神年齢は多分中学生のまま止まっている。というより年齢のサバ読みを疑うほどだ。本当に中学生なんじゃないかな。童顔だし。


なんて思っていれば嬉しそうに飴玉を口の中に放り込んだ彼は再度、私に掌を差し出してくる。



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