甘えたで、不器用でも
読んでいた本を閉じて美味しそうに飴玉を頬張る彼を見つめた。鞄の中に入れていた飴玉の袋をローテーブルの上に置き、次に言われる言葉を待ちながら。
ガリガリ、ガリガリ、飴玉を噛み砕く音が部屋に響く。そんなに噛んだら口の中は飴玉で傷だらけになってしまうのではないだろうかと、自分がそうなった時を想像して思わず眉根を寄せた。
「トリックオアトリート」
そして、再び浴びせられた例の言葉。
ここからはもう、ガリガリの音と、トリックオアトリートのエンドレスだ。
音を聞いて、彼に飴玉を献上する。
ハロウィンってこんな感じだったっけ?とハロウィンという行事が私の中で彼に飴玉をあげる行事にすり替わろうとしていた。
もう何個、彼に飴玉を渡したかも覚えていない。
ローテーブルの上。彼の前にはガリガリと噛み砕かれ体内へと消えていった飴玉の包装袋が散乱している。
私の目の前の大きな飴の袋の中にはあんなにたくさん入っていたのに、残りあとひとつ。
「トリックオアトリート」
その言葉と共に最後のひとつが彼の口の中に消えていった。
あーあ。ひと袋分の飴が。私の通勤中のおやつになるはずだったというのに。