囚われの雑草姫と美麗冷酷男子の生活
ソムリエと交代してコックたちにオーダーを伝えると

直ぐ様フロアに戻る

今日は事前の予約があまり無かったので
ギャルソンもセルヴーズの数も多くはない

ゆったりと構えたお客様が多い店内とは言え少しだけざわついていた

2テーブルのオーダーを回していると店内が急に声が響いた

「きゃ…ご本人?わたくしファンなんです!」

何かと思えば小野田さまにファンらしきマダムが小野田さまのテーブルに駆け寄ったようだ

(初めて見る顔…)

この店ではもし有名な方を見かけても皆さん見て見ぬふりをするのに…

少し残念にそう思いながらも来てくれたお客様にはかわりないのでこのままにしておくわけにもいかず

…走らない程度にフロアを進み
マダムの肩にそっと小さく声を掛けた

「失礼致しますお客様、応援の声は充分届いたかと思われます…折角のお料理が冷めてしまいますので…どうぞお席にお戻りくださいませ…」

ここで座らない場合は…出てきてもらおうと支配人に目配せをしておくと

あっさりとマダムは身体を下げた

「あら、し、失礼致しました…お邪魔致しました」

小野田さまもそつなく笑顔でマダムに握手をしてくれ…トラブルにはならなかった

「有り難う…これからも応援してください」

内心ほっと胸を撫で下ろして小野田さまと続いてフロアに向けて頭を下げ、給仕に戻る

コースを運んでいき
その後は小野田さまのテーブルは順調に進んだ


そんな慌ただしい中…今度は入り口側に女性の静かな歓声が上がり、ふとそちらを見ると…

(あ……)

入ってきたのはブルーグレーのスーツに身を包んだ彰貴さんだった

細身のスーツが身体にピタリとフィットしていて
スタイルの良さが際立つ

思わず女性からうっとりとした溜め息が出るのも分かる…

隣には辻堂ホールディングスの社長が居た

(あれが…騙さなくちゃいけない人…)

私は駆け寄る支配人の後ろで手料理を運び

彰貴さんと目が合うと頭を下げた

見られていると思うと緊張してしまうが…

「君のしたいように仕事をすればいい」

彰貴さんはそう言っていたから

…普段通りの仕事をするだけだ

(演技は必要な時にとっておこう…)

忙しくフロアを動き回れば…いつしか彰貴さんの事も頭から抜け落ちて…いつも通り必死にお皿を出し入れする

段々とお客様の数が減ってきて閉店間際で余裕ができた頃

支配人に呼ばれた

「月島、こちらへ」

「はい」

呼ばれた先に居たのは彰貴さんと社長だった







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