囚われの雑草姫と美麗冷酷男子の生活
「お似合い…です……」

着せてくれた人は言ったけれど…

どう見ても似合っていない

背の小さい私にこのシルバーのロングのマーメイドドレスはとにかく似合わない

「これ、本当に彰貴さんが……?」

「は…えぇ…は…い」

サロンのスタッフもにこやかではあるが心中では動揺しているのか慌て始めているように見える

(そうよね…似合ってないもの……)

そこへ違うスタッフが駆け寄ってきて何やら耳打ちした

「は?えっ!……月島さま、少しお待ちくださいませ」

(何かの手違い……なんだろうな……)

広い試着室で似合わないドレスに身を包んだまま
動くわけにもいかず立っていると

いきなりドアを開けた人物がいた

「なんでこんなちんまりした子がこれ着てるの?それ、私のよ」

「……は、え?」

綺麗に整えられた眉をキッとキツく上げた迫力の美女が私の肩に手を掛けた

「早く脱いで」

「…畏まりました…」

勢いに負けてついそう答えてしまう
それに冷静に考えても、確かにこのドレスは…長身ですらりとした彼女なら似合うだろう

いそいそと着ているものを脱いで手渡すと乱暴にそれをひったくって女性は試着室の端で着替え始めた

「石河様…困ります…お部屋はこちらではなくて」

急いで追いかけて来たスタッフが入るより先にドレスを着て
女性は私に向けてにやりと笑った

「じゃあアナタ帰っていいわよ?今日で交代しましょ?」

「え…そんなわけにいきません」

「大丈夫よ、偽物の婚約者さん…彰貴は私と結婚するから大丈夫。ホテルの経営には五つ星銀行の頭取の私のパパと手を組む方が有益だしね?アナタみたいな雑草は彰貴にもう必要ないのよ」

…この顔は見たことがある…数か月前彰貴さんと知り合ったあの夜に
彰貴さんを叩いていた人だった

(メガバンク銀行の頭取の娘…)

ものすごい美貌もそうだけれど…何より彰貴さんのメリットになる相手

私はじっと女性を見た

今まで一度も現れなくてなぜ?今日この日に現れたのだろう…
忙しい彰貴さんの支えになろうとしてた?

いいえそんなことはなかった

「何よ…」

「承諾できません…私の依頼人は彰貴さんです…貴女が勝手に契約を解除することは出来ません」

事情はあえて聞かないようにしているのか言葉が切れたところでサロンのスタッフが
私に黒いローブを掛けてくれ、同時に女性を違うスタッフが部屋から連れ出していた

「月島様…こちらへどうぞ」

「はい…」

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