囚われの雑草姫と美麗冷酷男子の生活
「お待ち下さい石河さま!!」

入り口が騒がしくなり

大きな扉の音と共に先ほど試着室に乱入してきた女性がこちらにカツカツとヒールを鳴らして会場を横切って近付いてきた

「彰貴!そんな子を婚約者として発表するなんて、恥さらしなだけよ!予定通り私にしておきなさいよ!」

(な…こんな場で何を言い出すんだろう)

「君との契約は既に終了している…お引き取り願いたいね」

にじり寄る女性に彰貴さんが冷たい瞳で女性を見た
静かな怒りを滲ませた鋭い視線に女性は怯む

「な…そ、そんな冴えない子!どうせ偽物でしょ?貴方が雇った偽物!」

(このままじゃ彰貴さんに迷惑がかかる!)

違うと否定しようと言葉を発したその時

「違いま……んっ!」

彰貴さんが唇を性急に塞いだ
そして甘く味わうように口付けるとゆっくりと離す

黒く艶やかな瞳が大丈夫、と言うように優しく細められて私を見下ろしていた

「フフ…可愛い…」

(は、恥ずかしすぎる!)

「言いたいのはそれだけか?…誰が偽物だって?」

再び彰貴さんの瞳がドライアイス並みに冷たくなった

「だってその子は偽物でしょう?私と同じ!それにその子の過去は!」

「誰から何を聞いたかは知らないけれど、那寿奈を選んだのはオレで両親も那寿奈を認めている…那寿奈はオレが心から大事にしている人だ…
侮辱するなら許さないよ?
それに…君こそこんな場で騒いで…お父上に迷惑がかかるんじゃないか?」

畳み掛けるように放った彰貴さんの言葉に彼女は真っ赤になって大粒の涙を流した

「な、なによ…」

泣きながら後退りし踵を返した彼女の走り去る姿に
いたたたまれなくなる

確かに彰貴さんに迷惑をかけたのは許せないけれど

(彼女も本気で彰貴さんに恋していたのかもしれない)

そう思ったら…

「那寿奈!」

気が付いたら彼女を追って会場の外へ飛び出していた

「待って!はぁはぁ…」

扉の外で彼女を捕まえるとものすごく睨まれた

「なんのつもり?さっさと戻りなさいよ…馬鹿にしにきたわけ?」

「違…でも何で来たかよく分からないです…」

「バカなのあなた…坂下が言った通りね」

髪を掻き上げながら彼女が忌々しそうに言った

(坂下…)

聞きたく名前に身体が硬直したその直後嫌な声が聞こえた

「だろ?こいつは雑草、お坊っちゃまは珍しいから手に入れただけだろうよ…な?那寿奈…」







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