囚われの雑草姫と美麗冷酷男子の生活
ふと、目が覚めると彰貴さんが隣には居なくて

カーテンの外は暗く、まだ真夜中のようだ

(いつの間にか寝ちゃってたんだ…)

彰貴さんに抱き上げられていた所までは覚えているがその後は分からない

広くなったベッドで一人は寂しくて…

つい彰貴さんの姿を探してしまう

ドアの所に目が行くと微かに灯りが漏れていて…
リビングの電気が付いているようだ

そっとベッドから降りてドアを開けると
スーツに着替えた彰貴さんが鞄を手にしていた

「すまない、起こしてしまったか?……寝ていていいよ?」

「お仕事……ですか?」

こんな夜中に出ていくなんて……トラブルだろうか

「うん、そう…ちょっと急なトラブルで……すまない今から出なくてはいけなくなってね…朝食は食べられそうもないし、ゆっくり寝ていていいよ、起こしてごめんな?」

トラブル

まさか…

私は身体が縮み上がる

(紺上……)

「那寿奈、心配しないで…大丈夫だから、な?行ってきます」

彰貴さんは私の頬にキスを落とすと
鞄を持ち直して螺旋階段を駆け下りて行った

「彰貴さん…」

閉まる扉の音か不穏に響く

胸がジリジリと焼かれるようだった




仕事へ行くと
またあの冷たい目の黒服の男がランチタイムに来ていた

「いらっしゃいませ」 

素知らぬフリで接客すると、男は目をギロリとこちらに向けてボソリと話す

「御前は本気です、既に一手を打ちましたよ…早めにご決断ください」

やはりトラブルの引き金は紺上か…
絶望的な思いを抱いてメニューブックを握りしめると
まるで操られたように口から出ていた

(このままでは彰貴さんを傷付けてしまう…)

「…分かりました…近日中に家を出ます」

それしかない

「お早い決断を有難う御座いました、実行され次第状況は変わるでしょう…口先だけでは無いことを祈ります」

「……」

監視されていると、言うことか……

その日青ざめたまま仕事をした

家から出て、どこに行くのかあてはない

このレストランもホテルも彰貴さんの会社の傘下だから
当然この勤務先にもいられない

(また根なしの雑草は漂わなければならない)

その事の不安もそうだが
何よりも…好きになってしまった彰貴さんと離れるのは辛かった

けれど…

(彰貴さんには、幸せになってほしいから)

私が消えれば彰貴さんにも辻堂にも迷惑はかからないだろう

(今夜家を出よう)

そう決意した




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