囚われの雑草姫と美麗冷酷男子の生活
いつものように左東さんの運転で邸宅に戻り
降りる時に

「左東さん…」

「はい」

「有難う御座いました…」

自然に思えるように降りるタイミングで深々と頭を下げた

(今まで良くしていてだいて有難う御座いました)

「こちらこそ、有難う御座います…私も那寿奈さんのお手伝いが出来て幸せですから」

優しい微笑み

いつも見守ってくれた、まるでお父さんのような人

「それは嬉しいです、ではおやすみなさい」

もう一度頭を下げてくるりと向きを変えると
左東さんから声が飛ぶ

「那寿奈さん、また、明日!」

「…」

明日には会うことは出来ない

だからそこで嘘は付けず曖昧に笑って返した

(本当に有難う御座いました…さようなら)

時計を見ると時間は20時…急いで自分の元から持っていた荷物をボストンバッグの中にまとめる

……ブランケットだけ貰おうと鞄に詰めた

彰貴さんが、戻る前にここを出なくては

急いで鍵をかけて鍵はポストの中に落とした
鍵が掛けられたポストだから盗難の恐れはないだろう……

(お世話になりました)

一度だけ振り返り邸宅に頭を下げる

水色の部屋、黄色の部屋

二人でご飯を食べたダイニングキッチン

全てに有難うと思いながら森の道を歩く

いつもは車だからあっという間に抜ける森も…徒歩で歩くとかなり時間がかかった

暗い森の道をやっと抜けて通りに出ると安堵感にフゥと息を吐き出す

とりあえず…ネットカフェに行って一晩を過ごすかと
駅の方を目指して歩くと声を掛けられた

「やっと出てきた…待ってたぜ、那寿奈」

会いたくない人物が電灯の下に居た

「家は出るけどアナタと居るとは言ってない」

「冷たいこと言うないでウチに来いよ
行くとこなんか無えだろ?家なし子…女一人で夜歩くなんて危ねーし」

坂下は眉を下げて昔のように少し優しい顔を見せた

「あのねえ…家を奪ったのは誰?…アナタでしょ?今更そんな事を言われて私がアナタについていくわけないでしょう?」

不快だと伝えるために睨みつけると
坂下が強引に私を引き寄せた

「離してっ!」

「許せとは言わないから…頼む…戻ってきてくれ
オレだってお前に本気だったんだ…」

坂下に抱きしめられると力が強くて…抜け出すことも出来ずにもがく

「やめて、やめて!私はもうアナタなんて何とも思ってない!」

(今は彰貴さんにしか触れられたくない!)




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