月と握手を
「あんたもしかして、天使ってやつ? 私そういうの信じないんだけど、会っちゃったら信じるしかないね」



 そう言った私を見て、女性は黄金の瞳を大きく見開いた。それも、何ともわざとらしいリアクションで。



「天使? そんなこと言われたの初めて! 柘季ちゃんって美的センスある~!」

「あのさ……ここ病院だし、今は夜中。静かにしてくれないと、私が明日みんなに怒られるんだけど」

「あれっ、柘季ちゃんはそんなこと心配してるの? 大丈夫だよ。あたしの声は柘季ちゃんにしか聞こえないし、ましてや姿も見えないんだから。ていうか、ほんと無愛想だよね。美人がツンツンしてると、たちまちひがみの対象になるんじゃない?」



 会って数分しか経っていないのに、女はなぜかなれなれしい。『黙っていれば美人』というやつだな。そう考えた私も失礼かもしれないけど、うっとうしくてイライラする。パーソナルスペースが狭い人は苦手だ。自分の家に、土足で踏み込まれているような気分になる。
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