誓いのキスを何度でも
誠一は黙って木下さんを見つめている。

「お願いします。
父と会ってください。」

と木下さんは頭を下げて、動かない。

「…父は俺の言うことを聞いたりしない…
いつでも、自分の意見を押し付けてくるだけだ」

「私が間に入ります。
誠一さんの話を聞くように…」

「今日は…帰ってください」

「…わかりました。
でも…時間があまりありません…
連絡を待っています」

と、木下さんは立ち上がって玄関に向かう。
誠一は椅子に座ったまま、動かない。

私は立ち上がり、玄関で見送る。


「柏木さん、すみません。
誠一さんをお願いします。」と木下さんは玄関を出て行った。



私がリビングに戻ると、誠一は私の顔を見て、顔を歪める

私が誠一をそっと抱きしめると、
誠一は私の身体を固く抱いて、

「どうして…こんな風になったんだろう。
もうすぐ親父は死んでいくのに…
…俺は親父を許せない…
でも…俺にとってはどんな親父でも…親父なんだ…」

と苦しそうに言葉にする。

「…あたりまえよ。家族だもの。
…会った方がいいわ。
許さなくても…いいのよ。たぶん…
…会って、言いたい事を言うといいのよ。」

と私がなだめるように言いながら
指で誠一の髪を梳くと、誠一は私の指を掴んで指先にくちづけし、私を固く抱きしめたままで肩を震わせ嗚咽を漏らした。



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