誓いのキスを何度でも
誠一は嬉しそうにベビーの顔を覗いて満面の笑みを浮かべていたけど…

「『菜歩』(なほ)…。」

助産師さんに促され、そうっと子どもを抱っこし、誠一が決めていた名前をつぶやいてから、
ふうとため息ををつく。

…なにかな?

「…俺に似てるかも…」

うん?

「お父さんに似た女の子は幸せになるっていいますよね!」

と私に向かって微笑む助産師さん。

誠一はすっかり私に似た女の子が生まれてくるものだと信じ切っていたみたいだ。


「はい。ありがとうございます」

と私が笑い出すと、

「果歩、…名前『誠子』にする?」

…微妙な提案…


「『菜歩』でいいでしょ。お腹にいる時もそう呼んでたし…」

と言うと、

「これは…そうそうにもう1人だな。
今度こそ、果歩によく似た目のぱっちりした女の子を産んでもらわないと…」

「可愛いよ。菜歩は!」

と誠太郎が誠一に怒る。

「可愛いよ。物凄く可愛いんだけどさあ、
菜歩まで、俺に似なくってもさあ…
…予定では果歩に似た女の子が…」

とぶつぶつと呟いている。


「うーん。これは桜庭先生似の美人になるよ」

と産婦人科のベテラン医師に言われると、そうかなあと嬉しそうに頭をかいている。



…私は何人子どもを産んでも
誠一に似ている子どもが生まれて、
沢山の『誠一』に囲まれているところを想像して
また、クスクス笑ってしまう。



誠一は誠太郎が嬉しそうに菜歩に話しかけ、私が楽しそうに笑っているからか
すっかり気を取り直し、

「菜歩、お父さんに似てると幸せになるらしいぞ」

と満足げに生まれたばかりのベビーの頬にキスをして、
私と誠太郎ににっこり微笑みかけた。



〜〜おしまい〜〜
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