誓いのキスを何度でも
ピンポンとチャイムが鳴る。

はい。と出ると、

「セイちゃーん。ヨウコさんですよー。遊びにきちゃったー」と楽しそうな声がする。

母だ。

なんでこのタイミングで母がやってくるのか?


私が返事が出来ずに黙って、誠一を振り返ると、

「果歩、セイちゃん、どうしたの?」と母の声がまたしている。


「果歩、俺が出るよ。」と真面目な顔で玄関に向かう誠一。

「待って。お母さんちょっと待ってて。」とインターフォンに返事をして私は誠一を追いかけるけど、

誠一が一歩早く靴を履いてドアを開けて外に出る。
私も慌てて外に出て、後ろ手にドアを閉じた。

2人で緊張した顔で並んでドアの前に立ったのを見て、
固まる母。

「やあだ。お客さんならちゃんと言ってよ。」と笑顔を見せるけど、

「初めまして。桜庭です。」という誠一の顔をちゃんと見た途端、みるみる顔が険しくなり、

「あなた、誠太郎の父親?!」と絞り出すような声を出し、誠一が

「はい」と言った途端思い切り頬をパン!と叩いた。

あっと私は息を飲んだけれど、

「果歩さんをひとりにしてしまいました。申し訳ありません。」
と誠一は母の顔をみつめたまま、床に手をつき、
ガバリと額を床につけて土下座をする。

「や、やめて!誠一さん!!
私が、…私が黙って逃げ出したの。
誠一さんはなにも知らなかったの
だからやめて!
お母さん!やめさせて!」と私が叫ぶように言って誠一を抱き起こそうとすると、

母は大きくため息をつき、
「セイちゃんはこの事を知ってるの?」

「言ってない」と言うと、また、ため息をつく。

「果歩ー、サクちゃんー」と言いながら、誠太郎の声が聞こえたので、私は慌ててドア押さえる。

「果歩ー、どうしたのー?!」とドアの内側を誠太郎が叩く音がする。

「ちょっとまってて。」とドアを押さえたまま、内側にいる誠太郎に話しかける。

「…僕は…もう、果歩さんと誠太郎君のそばから離れるつもりはありません。」とはっきりと口にした誠一に

「今日は帰るわ」と母は言って、後ろを向き、階段を降りて行った。


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