誓いのキスを何度でも
「果歩さんを失ってからの僕は仕事だけする事を考えました。
他の女性は本気で好きになれませんでしたし、
もう、一生ひとりでもいいと…思っていたんです。
…でも、4月に友人の結婚式の2次会で偶然果歩さんに会いました。
そこで果歩さんがひとりでいることを知って…子どもがいると聞かされましたが、その時は自分の子どもだとは分からずに果歩さんの子どもなら一緒に育てたい。と、
もう一度、果歩さんと一緒にいたい。
そう思って家を捨てる決心をしてここに来ました。
…実際は僕の子どもだと知って、とても嬉くて…
でも、あの時、僕が離れなければ、こんな事にならなかったのに…と親子3人で暮らせていて、果歩さんだけに大変な思いをさせたりしなかったのにと…
もう一度果歩さんとやり直したいと
そう決心しています。」と真面目な顔で話した。

「果歩、どうなんだ?」と父が私に向き直る。

「もう、7年も前の話です。
私は…あの時、子どもを産むことだけを考えて、あの病院を離れたつもりだったけど…
あなたがあの病院のグループの代表になる人だって知らずに付き合い始めて…
21歳の私にはあなたを支えて妻になるなんて、とても無理な事だって、ご両親に言われたら…
そうなのかもしれないって
あなたには私より、ずっと相応しい誰かがいるはずだって
そうおもったの。
だから、妊娠しているのがわかった時に、
この子と生きていこうって…
連絡もせずに黙っていなくなったの。
別々に生きた方がいいって…
あなたの事は忘れようって…そう思った。
あの時、私はあなたから逃げ出したの。
妊娠していなくても、きっと待っていられなかったのかもしれない。」

「俺は家を捨てたよ。
俺は果歩と誠太郎と一緒にいたい。」と私を真っ直ぐに見る。

私は返事が出来ない。

父がゆっくり口を開く。

「君は家を捨てた。と言うけれど、
そう簡単なものではないよ。
勝手に家を出てきても、ただの家出だ。
親と話し合って君が仕事を継がないなら、それは誰が担(にな)うのか。
誰にでも出来る仕事ではないんじゃないか?
…お父さんに何かあったら、どうするつもりだ。
いずれは、戻る事になるんじゃないか?
果歩と誠太郎の元を去る事になるんじゃないか?
いま、良ければそれでいいのか?
きちんと考えなさい。
でなければ、誠太郎の父親だとしても、
一緒になる事は認められない。」

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