誓いのキスを何度でも
夏の日。
7月に入った。
今年の夏も暑くて厳しい。

小学校の1年生は午前授業になっているけど、
昨日から誠太郎は夏風邪を引いて時折咳をし、鼻をグズグズいわせ、微熱気味でボンヤリしている。

小学生も病児保育があったら安心だったのに…

こんな時に限って両親はバス旅行に行ってしまったし…

手持ちの薬を飲ませ、
仕方なく誠太郎に具合が悪くなったら、我慢せずに連絡をするように言って、ランドセルを背負わせ、見送る事にする。

こういう時、働く母は少し困る。

ハッキリと、熱でもあれば、私も覚悟を決めて休ませてほしい。
と連絡をいれて、休みをとってしまえるのに…



お昼前、外来診療が落ち着いた時に一緒に働いているナースに声をかけて抜けさせてもらい、
誠太郎に電話して様子を聞こうと
電話が許可されている休憩ブースに急ぎ足で歩く。

「果歩!…どうした?」と私は誠一とすれ違った事にも気づかなかったようで、
白衣を羽織った誠一に肩を掴まれる。

「桜庭先生…えっと、あの…誠太郎の体調が…
あ、そんなに具合が悪いわけじゃないんだけど、
朝、熱っぽくって…連絡とっておこうと思って」足を止めずに歩くと、

「そうか…お母さんに頼むのか?」誠一も一緒についてくる。

「ううん。お母さん出かけてて…具合が悪くなってなければ…大丈夫かなって…」

「果歩、心配なんだろ。…俺が連れて帰って一緒にいようか?」

「…仕事は?」

「当直明けだから迎えに行って果歩の家で留守番させとく。
ここで受診して安静にしてればいいだろ…」

「え?…でも…」

「俺も誠太郎が大事なんだけど」と立ち止まって私の腕を掴む。

…そうだよね。


「…よろしくお願いします。部屋の鍵の予備と車と鍵を渡すから着替えたら外来に来て。
学童には連絡しておくから…」と誠一の真面目な瞳を見つめた。




< 75 / 159 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop