この手だけは、ぜったい離さない
それはわかってるんだけどさぁ……。
だってはるちゃんみたいな美少女がライバルだなんて、私に勝ち目なんかぜったい無いじゃんか…。
これまでに何度も告白され、その全てを秒速でフッていた洋くんが『ちょっと考えさせて』っていった子がはるちゃんだよ?
女になびかないって定評がある洋くんの心を、唯一揺らした子がはるちゃんだよ?
結局のところ、洋くんははるちゃんとも付き合わなかったみたいだけど…。
でもそれってつまり、洋くんははるちゃんとだったら付き合ってもいいかなって一瞬でも思ったってことだもんね?
「むり…。私なんかよりも、洋くんだってはるちゃんと話したいに決まってるよぉ」
「なに言ってんのよ。そんなことないでしょ」
「……でも今はいいや、楽しそうに話してるところを邪魔できないよ」
すぐ後ろから聞こえてくるはるちゃんの「洋、今日の夜一緒にトランプしない?部屋に遊びに行っていーい?」っていう明るい声。
洋くんの「やだよ、今夜は荒井とかと麻雀すんだよ。ぜってぇ来んなよ」っていう声も、嫌がっている割にはなんだか楽しそう。
そういえば今日は、洋くんとぜんぜん会話できなかったもんなぁ…。
いいなぁ、私も洋くんとお喋りしたい。
なんて思いつつ…。
はるちゃんと洋くんの間に入る勇気がない私は、ふたりの会話に耳をむけながら黙々と料理を頬張った。