この手だけは、ぜったい離さない
みっちゃんとふたりして「目がしみる」って騒ぎながら野菜を切り続けていると。
「洋もちゃんと野菜切ってよぉ!さっきから私ばっかりしてるじゃんっ」
「やだよ、お前がぜんぶやれよ。俺そういうの苦手だから。あっちにいる飯盒係りの多津たちを手伝ってくる」
「だーめ!洋は私と野菜を切る係りって決まってるの!」
はるちゃんの楽しそうな声に包丁を持つ手を止め、声が聞こえてきた方向に目をやった。
私とみっちゃんと同じように、木製のテーブルの前でふたり並んでいるはるちゃんと洋くんの姿が、離れた場所に見える。
離れていると言っても、はるちゃんと洋くんの声はしっかり聞こえてくる。
テーブルに包丁を置いたはるちゃんは、テーブルの前から離れようとした洋くんの左腕をぎゅっと掴まえて嬉しそう。
はるちゃんったら大胆だなぁ…。
「こっちこっち」って言いながら、洋くんの腕にはるちゃんの細い腕を絡ませたりなんかして。
むり、私にはそんなことぜったいにむり!
洋くんだって、まんざらでもないのかな?
はるちゃんの手を払いのけたりせずに「ウゼェ」って言いながらもちゃんと従っているし…。