この手だけは、ぜったい離さない



宿舎に戻って患部の消毒と、絆創膏を貼ってもらい追野くんと一緒に野外炊事場に戻った。



黙々とご飯を炊いてくれていた荒井くんと、私が切るぶんの野菜まで切ってくれたみっちゃんに「任せっきりになってしまってごめんね」と謝っていたとき。



なにやら、洋くんが「あかり、大丈夫か⁉」って血相を変えて駆けよって来た。



「包丁で手を切ったって聞いたからっ!すげぇ血が出てたって!」



洋くん……なんだかすっごく慌ててるけどどうしたんだろう?

もしかして私のこと、心配してくれてたのかなぁ?

そういえば洋くんって、けっこう心配性なところがあったもんな。



6年前も、私が転んで膝を擦りむいたときとかも『あかりっ……血が!血がぁぁっ!』ってひとり騒いでいたし…。

『骨は折れてない⁉心配だからおんぶして帰る‼』って言い出したりして。



そんな心配性なところも、ぜんぜん変わってないんだなって思ったら笑いが込みあげてきた。



「ぷっ……あはははっ!大丈夫だよ洋くん、血はけっこう出たけど傷はそんなに深くないみたいだから」

「あー……そっかそっか。ならよかった……マジでよかった」

「心配してくれてありがとう」



ぜーんぜん大丈夫だよ、って明るく笑ってみせると、洋くんは「ほんと気をつけろよな」って大きく息を吐いた。



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