この手だけは、ぜったい離さない
「え、洋……?あの、さっきの話しは……その…」
はるちゃんの怒りを含んだ鋭い目は、洋くんが視界に入った途端に右往左往へ泳ぎはじめた。
「違うの、さっきのはほんの冗談だから…」
洋くんは私になんて目もくれず、焦りを隠せないはるちゃんの前で足を止める。
「ごめん。俺…あかりのことが好きなんだ。だから遥の気持ちには応えられない」
「えっ……?」
思わず声が洩れた。
洋くん……今、なんて言ったの?
私のことが好きだからって……?
嘘でしょ?
なにかの聞き間違いとかじゃなくて?
だって私のことなんて、友達としか見てなかったんじゃないの?
「なんなのよ……洋のバカ!そんなにはっきり言わなくてもいいじゃない!」
はるちゃんは「もう勝手にしてよっ!」と怒りをこめた声を残し、この場から逃げるようにして屋上から出て行った。
泣きながら出て行ってしまったはるちゃんが気になるけれど…。
でも、それと同じくらい気になるのはさっき洋くんが口にした言葉。
「洋くん……あの、さっきのはどういう意味なの?」
屋上の扉からゆっくりと私へ向けられた洋くんの瞳に、いつかの帰り道のような真剣さが戻ってくる。
「本当はこんな形で告るつもりはなかったんだけどなぁ…」
「え?告るって…?」
「小学3年生のとき、あかりが引っ越してから自分の気持ちに気づいたんだ。俺は6年前のあの日から、あかりのことがずっと好きだった」