この手だけは、ぜったい離さない
視界が涙でぐらぐらしてきた。
ブレザーの袖口で涙を拭いながら、私を無表情で見つめたまま言葉を発さない洋くんを見上げる。
「あの、洋くん……?」
まるで時間が止まってしまったみたいにフリーズしてしまってるけど…?
洋くんは顔を俯けて「はぁ……もう」と、頭を抱えこむようにして深いため息を吐いた。
「ごめんごめん。マジでこれは夢じゃねぇよなって頭の中でなんども再確認してたわ…。だってあかりは、俺のことを友達だと思ってるんじゃねぇかって思ってたから」
ため息まじりに言いながら、自分の頭をわしゃわしゃと掻き回した洋くんの顔は真っ赤になっていて。
「それは私だって同じだよ。洋くんも私のことを、友達だって思ってるんだろうなって思ってたの」
「なんだ……じゃあやっぱりあのとき、告っとけばよかったなぁ」
「ん?あのときって……?」
「いやっ、なんでもない。まぁ……これからもよろしくな、あかり?」
洋くんは恥ずかしそうに笑いながら「そろそろ帰るか」って左手を差しだしてくる。
「うんっ!私の方こそよろしくね、洋くん」
私は笑顔で頷くと、洋くんの左手を右手でしっかりと掴み返した。
私と洋くんは、足並みを揃えて歩きだす。
6年前と同じように……いや、まだふたりが幼稚園児だったあのころと同じように。
だけど、幼かったあのころと今では、ひとつだけ違うところがある。
それは…。
私と洋くんの手が、繋がれているということ。