この手だけは、ぜったい離さない
荒井くんが鋭い舌打ちをしながら、私に向かって1歩体を寄せたとき。
「待て」なんて言いながら左手をすっと伸ばし、怒り心頭の荒井くんの進行をはばんだのは洋くんだった。
「まぁまぁそう怒んなよ、ノリ」
なんて荒井くんをなだめながら、火がついたように声をあげて笑いはじめた。
「はぁ?なに笑ってんのお前。だってムカつくじゃんこの女」
洋……くん?
なんにも話さなくなっちゃったから、てっきり怒らせてしまったんだとばかり思っていたけど。
苛だちを隠せない荒井くんなんてそっちのけで、腹を抱えて笑いはじめた洋くんの姿には呆気にとられた。
「はははっ‼すまん、ノリ。この子俺の幼なじみだから勘弁してやってくれよ。それにしてもあかり、昔となんにも変わってねぇのな!」
「えっ?変わってないって……?」
「いや、そうやって先生みたいに誰かれ構わず注意するとこ!俺もそうやって何回あかりに注意されたことか……。あー、やべぇ懐かしすぎる」
言われてみればたしかに…。
昔もよくこんなふうに『それはダメだよ洋くん』って口癖のようにいってたかも…。