この手だけは、ぜったい離さない



『洋くん、信号が青でも周りをよく見て渡らなきゃ危ないよ。わかった?』

『洋くん、外から帰ったら手洗いうがいをちゃんとしなきゃ。わかった?』

『ねぇ、廊下は走ったらダメでしょ?わかった?』



とかって、それはそれはもう毎日のように口うるさく言ってたんだっけ。

すると決まって洋くんはいつも、



『わかった』



って嫌がりもせず、頷きながら笑っていたんだよね。



そんなこともあったなぁ。

なんてついつい、回想にふけってしまった。



「ちゃんと覚えててくれてたんだぁ…」



もう6年も前のことなのに、そんな些細なことも忘れないでいてくれたんだ。

そう思うと嬉しくなってきて、自然と頬がほころんでしまう。



「あたりまえだろ、俺があかりのことを忘れるわけねぇじゃん」



嬉しい……。

やっぱり洋くんは、ヤンキーになっててもやっぱり洋くんだ。



洋くんの口からでた言葉に胸を打たれた私は、感動してしまってひとり泣きそうになっていると…。



「あかりっ、行くよ!」



右腕がいきなり後ろから掴まれてしまったことで驚きふり返った。


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