この手だけは、ぜったい離さない
結局のところ洋くんに、今朝私が校門の前で言ったことは伝わったのかな。
もうムリヤリ席を取ったらダメだよってこと。
洋くんは昔のように『わかったよ』とは言ってくれなかったから、ちゃんと理解してくれたのかが心配だなぁ。
右斜め後ろの洋くんの席が空いたまま、1時間目のロングホームルームがはじまった。
もう授業がはじまっちゃったっていうのに、洋くんはどこでなにをしているのかな。
ついでに荒井くんの姿もないし、ふたりで校内のどこかでサボってるのかな…。
「宇月さん……宇月さーんっ」
机に頬をつけ、ぼんやりと洋くんのことを考えていると。
「はいっ、なんでしょう⁉」
不意にぽんぽんっと優しく背中を叩かれたから、机に伏せていた顔をはっとあげた。
「あかり。もしかして寝てた……わけじゃないよね?」
すると両腕を組みながら、ムッと唇を尖らせたみっちゃんが私の前に立っていた。
「宇月さん、再来週のオリエンテーション合宿のことで話し合おうよ」
その隣に立って、爽やかに笑いかけてくるのはメガネをかけたいかにも真面目そうな黒髪の男の子。