この手だけは、ぜったい離さない
そのさり気ない優しさが洋くんらしいなぁ。
「おい、さっきから笑いすぎだっての」
「あははっ…!ごめんごめん、洋くんはやっぱり昔と変わらず優しいなぁって思って」
そういうとこはちっとも変わらない。
6年前のバレンタインに、私が手作りしたココアクッキーをあげたとき。
私の目の前で「美味しい」ってぜんぶ食べてくれたんだけど…。
実は甘いものが苦手なんだって、洋くんのお母さんからコッソリ教えてもらったことがあったんだっけ。
そのときは申し訳ないことしたなって思ったけど、でも美味しいって言ってくれたその優しさが嬉しかった。
洋くんは昔から、さり気ない気遣いができる人だったよね。
「別にこんなのふつうだろっ…」
そういって洋くんは頬を赤らめたまま、あつあつのハンバーグを口に放りこむ。
「うわっ、洋が照れてる!なに今のっ、洋のそんな顔はじめて見たんだけどぉ⁉」
「決して女になびかないって有名な硬派な洋が⁉やばー、なに今のアンタ別人じゃん。超優しいしさぁ、デレデレじゃん!」
決して女になびかない硬派な洋くんって……なにそれ?
さっきも洋くんが女の子と一緒にいることは珍しいって言ってたけど…そうなの?
それってなんだか意外。
洋くんはかっこいいしモテるだろうから、女の子と出かけるなんて当たり前のようにしてそうなのに…。
「あぁ、もうマジうるせぇなぁっ!お前ら今後いっさい口をひらくなっ!話しかけてくんな!」
ハンバーグを食べているあいだも、アリサさんとミオさんはとにかく洋くんの言動が気になるみたいで。
私と洋くんが席を離れるまで、こんな感じでずっと騒がしかった。