この手だけは、ぜったい離さない
バス停につくと10分ほどしてバスが来た。
乗客の少ない車内で、私と洋くんはふたり席に並んで座る。
今日はちょっと早い帰宅だから、録画していた恋愛ドラマでも見ようかな。
なんて思いながら、窓越しに流れる景色をぼーっと眺めていると。
右の頬にちくちく視線がささっているような気がして、はっと右に顔を向けると洋くんと視線が絡みあった。
「ん……なに?今じーっと見てた?なんか視線を感じたんだけど…」
「うん、見てた。あかりはどんな6年間を過ごしてたのかなって勝手に想像してた」
「あはは、そうなの?じゃあクイズね、どんな6年間を過ごしていたでしょうか?」
洋くんは「そうだなぁ」なんて真剣な表情で悩みつつ。
自信がなさそうな感じで、ちょっと探るようにして「恋愛に夢中だった?」って聞いてきた。
「ぶっぶー、ハズレ。恋愛なんてぜんっぜんだよ。好きな人もできなかったし、告られたりとかもなかったし。なんなら教科書が恋人ってくらい勉強ばっかりしてたよ」
って……自分でこんなことを言ってると虚しくなるんだけど。
モテる洋くんからすれば、思わず笑いたくなっちゃうような話しなんだろうなって思ったら恥ずかしくなってきた。