この手だけは、ぜったい離さない



「あぁ……そっか。はははっ。そっかそっか、そういうことかぁ」

「ちょっと洋くん、笑わないでよぉ」



ちょっとモテるからって、ぜんぜんモテない私を笑うなんて失礼じゃない?

いや、洋くんはちょっとモテるなんて時限じゃないのかぁ…。



みっちゃんが、中学時代は追野くんと洋くんがダントツ人気だったって言ってたから。

もう勘弁してよって言いたくなるくらいにモテてたんだろうけどさ…。



むっと唇を尖らせながら睨みつけると、洋くんは「馬鹿にしてるわけじゃねぇって」なんて焦っている。



そんな会話をしている途中で『次はホタルの里公園前、ホタルの里公園前〜』と、アナウンスが流れた。



ホタルの里公園前は、5月、6月になったら緑のフェンスを隔てた小川を飛ぶホタルがたくさん見える公園。

ブランコ、滑り台、ジャングルジムしかない小さな公園だけど、ホタルが見れるシーズンになるとたくさんの人が訪れる場所だ。



洋くんの家はそのホタルの里公園の真横にある。

ちなみに都会に引っ越す前は、私が住んでいたアパートもホタルの里公園から近かったんだ。



「洋くん……次、ホタル公園だよ。降車ボタン押さなきゃ」



もしかして押し忘れてるのかな?

青紫色のボタンに手を伸ばすと、洋くんに押すなとばかりに手首を掴まれてしまった。


< 45 / 228 >

この作品をシェア

pagetop