この手だけは、ぜったい離さない
両端に田んぼが広がる道で、洋くんと揃ってバスを降りた。
「私の家、ここから10分くらい歩いた先にある住宅街にあるの」
「ふーん。今は小学校の近くに住んでんだな。つーか…なんかこの道、懐かしい」
鮮やかな緑の田んぼや、遠くを走る小さな貨物列車を眺めている洋くん。
私と一緒に登下校をしていたことを思いだしてくれてるのかな?
そうだったら嬉しいな……なんて。
「ねぇねぇ、この道で私と追いかけっこしたこと覚えてる?」
田んぼの中を泳ぐオタマジャクシをしゃがみこんで見ていた洋くんが、すっと立ちあがって振り返った。
「もちろん。いっつもあかりに負けるから、ぜってぇ負けねーって思ってもやっぱり勝てなかったんだよな」
「でもたまに洋くんが勝ってたじゃん」
「いやいや……それはあかりがわざと負けてくれてたやつだろ。んなもん勝ったうちに入らねぇって」
……なーんだ。
私がわざと遅く走っていたことに、洋くんは気付いてたんだね。
勝った勝った、って無邪気に喜んでいたからてっきり、バレてないとばかり思ってた。