この手だけは、ぜったい離さない
「そうだっ!6年ぶりにかけっこやってみようよ!私、あれからさらに速くなったんだよ」
去年のスポーツテストで、50メートル走のタイムは7.6秒だったんだよね。
友達みんなに速いねって褒められたから、6年たった今でも負けない自信があるんだ。
「俺だって中学生になってから、かなり速くなったからな。もうあかりには負けねーよ」
「じゃあ、向こうの電信柱まで競争ね!」
洋くんがわかったって頷いた瞬間に「よーい、どん!」と30メートルほど先にある電信柱に向かって駆けだした。
洋くんは「あっ、ずりぃぞ!」なんて言いながらも私のあとを追いかけてくる。
小さく見えていた電信柱がぐんぐん近くなってくる。
やっぱり私の勝ちっ!
電信柱の目の前まで迫り勝利を確信した私は、走りながら右手でガッツポーズを決めたところで…。
びゅんっと風のように私の視界に飛びこんできた洋くんに、ゴール目前にして抜かされてしまった。
「よっしゃあ、俺の勝ちだな!あぁーやべぇ……はじめてあかりに勝った」
「ちょっ……洋くん速すぎっ!今回も私の勝ちだって思ったのにぃ」
くうぅ……悔しい。
フライングしたにもかかわらず負けるなんてっ。