この手だけは、ぜったい離さない
「そう何度も負けてらんねぇよ。……それで、新しい家はこの道をまっすぐでいいのか?」
「ちぇっ…悔しいなぁ……って、え?ううん、そこは左の細い道に入るんだよ」
ゴールにしていた電信柱から、さらにまっすぐ進めば小学校に。
左に曲がればぎりぎり車が通れるほどの細い道があって、その先に私の家がある昔ながらの住宅街になっているんだ。
「じゃあ家の近くまで行くよ」と言って背を向けた洋くんのブレザーの裾を咄嗟に掴み、動きはじめた足を強引に止めた。
「もうここで大丈夫だよ!送ってくれてありがとう、洋くん」
「え……でも。ここまで来たんだし…」
「ここまでで十分だよ。バス停まで戻ろう?帰りのバスが来るまで、私も一緒に待つよ」
ここは田舎だから、バスは1時間に1本しか来ない。
バスが来るまでまだまだ時間があるから、家を通り越してまでわざわざ送ってくれた洋くんをひとりで待たせるのも……って思って。
って……あれ、洋くん?
私をみおろしたまま呆然としちゃって、どうしたの?
「って思ったんだけど。そんなの……いらない?」