この手だけは、ぜったい離さない
「じゃあ仙崎と行けば?って言いたいところだけど……あらぬ噂をたてられたら困るもんね」
あらぬ噂っていうのは、私と洋くんが付き合ってるっていう類の話か。
確かに付き合ってないのに噂を流されるのは困るし、洋くんだって困るよね。
それに、南海さんに睨まれそうで怖いなぁ。
「あっ、それなら洋くんにあげてもいい?洋くんなら友達が多いから誰かと行くんじゃないかな」
「それはぜんぜん構わないよ。あかりが好きなようにしてくれたら」
「ありがとう、みっちゃん!」
靴箱から黒いローファーをとりだしながら、映画のペアチケットをブレザーのポケットにしまいこんだ。
「喜んでくれてよかった」と笑うみっちゃんの隣でローファーのつま先をトントン、と地面につけていると。
「美月、一緒に帰ろう」
そんな陽気な低い声が、すぐ後ろから飛んできた。
「え?どうしたの啓太、今日は追野くんと遊ぶんじゃなかったの?」
ん……なんだって?
啓太くんだって?
ぱっと後ろを振り返ると、浅黒い肌の坊主頭の男の子と目が合った。