この手だけは、ぜったい離さない
「洋くんを泣かしたら許さないからな、ってよぉ。あのときの宇月はマジで迫力ありすぎて怖かったわ」
「でも啓太ったらあかりの忠告を無視して、仙崎をイジメてたじゃん。やり返されてたけど」
なにっ……啓太くんったら、私が転校したあとも洋くんのことをイジメてたの⁉
それは許せない!
って思ったけど……洋くんもやられっぱなしじゃなかったんだ。
「あの弱っちい仙崎に殴られたときはびっくりしたよ。ははは」
「ははは、なんて笑ってるけど…あのときアンタ教室の隅で泣いてたじゃん」
「おい、それを言うなよ美月」
あ……なるほど。
洋くんが近辺に名を轟かせるヤンキーになった理由が、なんかわかったような気がする。
私という守ってくれる存在がいなくなった洋くんは、そうやって必死に自分を守っていたんだ。
イジメられるたびに自分を守るためにやり返して、立ち向かう強さを得たかわりに周りから怖がられるようになってしまったのかな?
「あぁ、なんかそれを聞いて安心したよ。洋くんのことがほんっと心配だったから」
「仙崎に心配なんか無用だろ。アイツめっちゃケンカが強いから、もう何があってもイジメられたりしねぇよ」
そんなことを言いながら苦笑いをしている啓太くんは「俺はもうぜったいアイツとはケンカしたくない」と殴られたときのことでも思いだしたのか、ぶるぶるっと身を震わせた。