この手だけは、ぜったい離さない
だって私のお父さんも2年前までは、タバコを1日2箱も吸っているような『ヘビースモーカー』だったんだもん。
お父さんが禁煙するって言いだした理由が、私がまさに今説明したとおり身体にたくさん害を与えてしまうから。
だから今さっき洋くんに言ったことは、ぜんぶお父さんのウケウリなんだけどね…。
「私はね、洋くんとは私たちがお爺ちゃんとお婆ちゃんになっても仲良しでいたいなって思ってるんだよ」
こうして今みたいに、昔を懐かしみながらこの道を歩きたい。
幼稚園児のころも小学生のころも、高校生のころもふたりでこの道を歩いたねって話したい。
洋くんとは、ずっとそんな関係でいたいって思ってるの。
洋くんは驚いたような表情で、何も言わずに私のことをじっと見ていた。
右手にもっているタバコの灰が、じわじわと長くなっていく。
「でも洋くんの寿命が10年も縮まっちゃったら、そんな私の夢は叶わないかも。洋くんはどう思ってる?私たちがお爺ちゃんとお婆ちゃんになっても、仲良しでいたいって思わない?」
「……え、いや……うん。思うよ、めっちゃ思うけど…」
「だったら、お爺ちゃんになってもずっとずっと健康でいられるように、もうタバコなんかやめよ?」
洋くんは10秒ほど間を置いて「……わかった」と頷いたあと、すっかり小さくなってしまったタバコを地面に押し付けた。