この手だけは、ぜったい離さない
「……はぁ、ほんっとあかりには敵わねぇな」
バス停にむかって、来た道を戻る私と洋くん。
洋くんは「禁煙する」と決めたあと、そんな調子でため息ばっかり吐いている。
私はタバコなんか吸ったことがないからわからないけど…。
そういえばお父さんが、禁煙するのはすっごく辛いって言ってたなぁ。
口が寂しくなるんだって、ひたすらガムばっかり食べてたんだっけ…。
「あっ、そうそう!タバコが吸いたくなったときは、かわりにコレを食べるようにしたら?」
さっき駄菓子屋で買った、タバコのようなラムネをビニール袋から取りだした。
「あっ、これ俺が好きなやつじゃん。うわぁ、すげぇ懐かしい。なに?買ってくれたのか?」
「うんっ!洋くん、このお菓子大好きだったでしょ?」
「いや……確かに好きだけど。でもタバコのかわりに咥えるのはちょっと…。荒井にすげぇバカにされそうなんだけど」
なんて言いながらも、ラムネをひとつ取りだして口に含んだ洋くんは「やっぱ美味ぇ」と私に笑顔を返してくれた。