この手だけは、ぜったい離さない
ほどなくしてバス停につき、洋くんの帰りのバスが来るまでもう10分。
洋くんに「今日も送ってくれてありがとう」と、茜色に輝く夕日を背にお礼を言ったすぐあと。
そういえばみっちゃんから、映画のペアチケットをもらったことをはっと思いだした。
「あっ、洋くんあのね。みっちゃんから映画のペアチケットもらったんだけどね……私は映画とか見ないからあげる」
「映画のチケット?いいのか?って、これ明後日までしか使えねぇじゃん」
「そうなんだけどね…。でも、ちょうど土日だから学校はないし誰か友達と行ったらどう?」
洋くんは私の手から受け取ったしわくちゃの映画チケットを「うーん」と悩みながら表と裏を繰り返し見ている。
「じゃあ、俺と一緒に行く?」
「へぇっ⁉いっ、一緒に⁉」
洋くんと、私が一緒に映画⁉
えっ、なにそれ、それってもしかしてデートってやつ⁉
やだ、うそ、そんなの恥ずかしいっ!
私、デートなんかしたことないんだからっ!
いや、私と洋くんは友達だからデートじゃないのか……?
でもでもっ、男の子とふたりで遊んだことなんかないから緊張するっ。