この手だけは、ぜったい離さない
「ちなみに明日の現場は、そこの小学校なんだよ。外壁を塗り替えるとかなんとかで、朝から足場を組みに行くんだ」
「へぇ、そうなの?だったらうちの家の2階の窓から小学校が見えるから、洋くんのことも見えるかな?でもどうせなら、もっと近くで洋くんの仕事ぶりを見てみたいなぁ」
「別に見なくていいっての」と口を尖らせた洋くんは、ほんのり赤くなった顔をそっぽに向けた。
「あはは、冗談だよ冗談。見に行かないよ。洋くんや他の人たちの仕事の邪魔になるようなことはぜったいにしないから安心して」
とは言ったものの、やっぱり見てみたいから2階の窓から洋くんを探すかもしれないけど。
って、遠いから人が見えても誰が誰だかわからないんだけどね。
「いや……待て。昼の休憩の1時間だったら会えるから。そんなに見たいっつーんなら、小学校まで来てくれるなら会ってやってもいいけど…?」
「えっ……いいのっ?本当にいいの?」
「まぁ……うん。つっても、あくまで休憩時間だから仕事ぶりは見せられないけどな」
と笑った洋くんの頬は、さっきよりも赤みを増しているように思えた。
洋くんの仕事ぶりが見えなくても、1時間だけでも会話ができるならそっちの方が断然いい。