幾千夜、花が散るとも
「・・・一也。そろそろ起きよ?」

「起きない」

 朝っていうよりもう昼に近いのに。二人とも土曜で休みなのをいいことに、一也はあたしを抱き込んだままベッドの中で籠城中だ。

「でもね、そろそろ千也も起きて来るし、お昼ゴハン作んなきゃ」

「・・・・・・今日は俺の云うこと聞くんじゃないの?」

 うわ、拗ねた。
 千也よりちょっと繊細な顔立ちで。中学でも高校でも、学校中で知らない女子がいないってぐらいのクールな王子サマが。あたしの前だとほんとカワイイよねぇ。
 
「まだ可南とこうしてる」

 あたしの髪に顔を埋めるようにして、一也は駄々を捏ねまくってる。いつもはここまで聞き分けは悪くない。年に5回ほどあたしから離れなくなるだけだ。
 千也も分かってるから何も云わない。一也が、自分だけが置いて行かれるんじゃないかって不安がってるコト。あたしは一也に気取られないよう小さく溜息を吐くと、しょうがないなぁとわざと諦めて見せた。

「ゴハン食べたらずっと一緒にいるから。ね?」

「・・・・・・千也のとこには行かせない」

「いいよ」

 今日はね。一也にぜんぶ譲ったげる。

「じゃあ・・・約束のキス」

 一也の顔が寄って来て唇に吐息を感じた。くっついたかと思ったら離れ、今度は柔らかく舌が入り込んでくる。一也のキスは遠慮がちで優しい。

「・・・やっぱ起きたくない」 

「こら」

 あたしに頬ずりしながら、抱き締める腕に力を籠めた一也をたしなめて。

 ほんと。あたしも一也には弱い。
 この子に甘えられると、どうしたって突き放せなくなるんだから。
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