幾千夜、花が散るとも
座り込んで、どのくらいそうしていたのか。足許に視線を落としてるだけで。見てはいない何も。

「・・・ッ・・・ち、や・・・っ、一也ぁ・・・!」

名前を呼ぶ声が聞こえて、はっと顔を上げた。俺を目がけ駆け寄ってくる可南。屈めた両膝に手を付いた姿勢で肩を大きく上下させ、「はぁ、はぁ」と荒く息を吐く。やっと落ち着くと、上体を起こして一つ深呼吸をした。

「十也と追いかけっこするのより疲れた!」

汗ばんだ額を手の甲で拭い、パタパタと手うちわで扇ぐ仕草に、自販機でミネラルウォーターでもと立ち上がりかけたけど、なんにも持ってなかったのをすぐ思い出した。

「ごめん可南。ぜんぶ忘れてきたから、冷たいのも買ってやれない・・・」

「あたしも忘れた。大丈夫、ここの木陰で少し休んだら楽になるから」

いつもの笑顔で笑うと、可南は手を伸ばして俺の頭を撫でた。優しくあやすように。

次第に俺は萎れた花みたいに項垂れていく。可南は黙って後ろ頭に手を回し俺を引き寄せ、自分の肩に顔を埋もれさせて包み込んでくれた。
フルーティな柔軟剤の香り。甘すぎる匂いは嫌いで、あれこれ試して可南のお気に入りが決まった。馴染みすぎて可南の匂いになってる。これからは千也からも同じ香りがするんだろう。・・・そう思ったらじわりと涙が滲んだ。

「・・・・・・可南」

「なぁに」

「・・・俺を捨てないで」
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