幾千夜、花が散るとも
刹那、髪を優しく梳いていた指先が止まった。

「なんであたしが一也を捨てるの?」

「・・・・・・だって千也が帰ってきたろ・・・」

「うん・・・やっと帰ってきたね。これからはずっと三人で一緒にいられる。・・・ねぇ一也、あたしは三人じゃなきゃダメなんだよ」

可南の掌が俺の両頬を挟み込んで上を向かせ、柔らかい唇がそっと押し当てられた。離れては。角度を変えながら何度も口付けを繰り返す。

「千也を愛してる。でも一也も死ぬまで離さない。・・・こんなに酷くてワガママでも、あたしを捨てないで一也」

俺を見上げる眸が潤んでいた。可南もすごく痛そうだった。

俺だけのものにはならない、たとえ千也が死んでも。可南にとって三人でいることが全てなら、・・・じゃあ俺が死んだら。

「もし俺がいなくなったら、千也よりたくさん想ってくれるの・・・?」

痛そうな可南の顔が大きく歪んで、見る見る涙が溢れて零れた。

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